大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和地方裁判所 昭和56年(タ)59号 判決

原告

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

榎本昭

上野伊知郎

被告

A・B・甲野

主文

1  原告と被告とを離婚する。

2  原告と被告間の長女花子(昭和五一年一月一四日生)および二女春子(昭和五一年一一月二八日生)の親権者を原告と定める。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  この判決に対する上訴のための附加期間を六〇日と定める。

事実および理由

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、請求の原因として、別紙〈編注・略〉のとおり述べ、立証として〈以下、中略〉。

被告は、適式の呼出しを受けながら本件口頭弁論期日に出頭しないが、「被告は、一九七五年一二月六日、ブラジル国の習慣にしたがい、サルバドール市内において結婚したものであるから、離婚訴訟の裁判は、ブラジル国パイア州司法区の裁判所において行わるべきである。また、離婚事由も存在しない。すなわち、原告と被告は結婚後、居住地が転々と変わつたため、被告は親しい人達と遠く離れて生活せざるを得なかつたが、原告は被告の心情を理解できず、肉体的に被告を虐待するまでになつたので、被告は親しい者達のもとに帰り休養をとることになつたものであり、原告からの仕送りを得られず苦しい生活を続けている。」旨記載した書面を提出し、陳述したものとみなされた。

そこで検討するに、〈証拠〉によれば、原告と被告(国籍ブラジル国)とは昭和五〇年一二月六日ブラジル国の方式により婚姻したものであることが認められる。

ところで、わが国に離婚の国際的裁判管轄権が認められるためには、被告の住所がわが国にあることを原則とすべきであるが、原告が遺棄された場合、被告が行方不明である場合その他これに準ずる場合においてはわが国に離婚の国際的裁判管轄権があると解するのが相当である(最高裁判所昭和三九年三月二五日大法廷判決民集一八巻三号四八六頁参照)。

本件の場合、現在被告は日本国内に住所を有せず、肩書記載のブラジル国内に住所を有することは記録上明らかであるが、〈証拠〉に弁論の全趣旨をあわせれば、原告は勤務先の仕事でブラジル国駐在中に被告と婚姻し主文掲記の二人の子を儲け、昭和五二年五月家族全員で日本に帰国したが、同年一二月ころ被告は二人の娘を連れてブラジル国に帰国したこと、しかしその後昭和五三年三月ころ勤務先会社のボリビア駐在所勤務となつた原告のもとに来てボリビア共和国ラ・パス市で一家四人で生活していたが、昭和五四年一月ころ原告と二人の娘をおいたまま帰国し、本件訴訟が提起されるまで全く音信不通であつたことが認められる。

右のような事実関係のもとでは被告の住所がわが国にはなくとも本件離婚請求事件はわが国の国際裁判籍に属すると解するのが相当である。

ところで、法例一六条により離婚はその原因たる事実の発生した時における夫の本国法によるべきところ、前掲証拠によれば、請求原因一ないし六の事実が認められ原告と被告との間の婚姻関係は全く破綻していると認められるところ、右破綻の原因が主として原告にあると認めるべき証拠もない。

そうすると、原告の被告に対する民法七七〇条一項五号に基づく離婚請求は理由がある。

そして、前掲証拠によれば、原告は長女花子(昭和五一年一月一四日生)および二女春子(昭和五一年一一月二八日生)を両親の手助けをかりながら手元で養育していることが認められるから、右両名の親権者を原告と定めるのが相当である。

よつて、原告の離婚請求を認容し長女花子、二女春子の親権者を原告と定め、訴訟費用を被告に負担させ、上訴のための附加期間につき民事訴訟法一五八条二項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官小笠原昭夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例